キャンバスに映る貴方
第二話





chapter:恋慕





「皆はもう帰りました」


藤堂くんが言ったとおり、僕と彼以外は誰もいない。


部屋の真ん中にあった部員達のイーゼルはキャンバスと共に壁の端へと片付けられている。

閑散(かんさん)とした何もない部屋の中で、ただ、僕のイーゼルとキャンバスがあるばかりだった。


「何か悩み事ですか?」

「え?」

静かな空間に彼の凛としたハリのある声が聞こえて、僕は慌てて彼を見上げる。


「いえ、ずっと思いつめていたようでしたから……」

彼は、眉根を下げて微笑んだ。


初めて見る顔だ。


とても格好良い。

思わず見惚れてしまう。



「先輩?」

――あ、ヤバ。また思考が止まった!!


「あ、ううん。悩みなんてないよ? 心配してくれてありがとう」


悩み事なんて、あるとしたら貴方のことだ。


――なんてことは当然、言えるはずもなく、僕は首を左右に振って、見下ろしてくる彼に、ニッコリ微笑む。


そうすると、彼の手が、急に僕の方へと伸びてきた。



えっ? なに?


僕の心臓が大きく跳ねる。

それなのに、身体はまるで僕の言うことを聞いてくれない。

僕のすべてが、彼に支配される。


金縛りにでもあったかのように、ただジッとしていると、さっき思いきり首を振ったからだろう。


乱れた耳横の髪を撫でられた。


それはとても優しい手の動きだった。


緊張のあまり、唇を噛みしめてしまう。




「先輩、血が出ますよ?」


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