chapter:恋慕 僕の唇に、彼の親指が触れる。 弾力のある親指の触覚が、触れられた唇から全身にわたって、身体中に痺れをもたらしてくる。 気がつけば、僕は彼の骨ばった大きな手に、自分の手を重ねていた……。 彼に、『好き』だと告白したい。 でも、もし彼がノンケだったらどうしよう。 告白して振られるのは百歩譲っていいとして、嫌われるのは、とても悲しい。 それはとても苦しいことだ……。 「藤堂くん……あの……」 「先輩、帰りましょう。少し冷えてきました」 震える唇で、愛おしい彼の名前を呼ぶと、それを拒むかのように、添えられた親指が、僕から離れる。 背を向けられた。 どうやら僕はおかしな行動をとってしまったようだ。 顔を合わせるたび――。 声を聞くたび――。 言葉を交わすたび――。 こうして、僕の中では貴方を想う気持ちが膨れ上がっていく。 ――どうしよう。 どうすればいいのだろう。 ほんとうに、どうしよう……。 足踏みをしていると、藤堂くんの腕が伸びてきた。 僕の傍らに置いてあった学生カバンが、たくましい肩に担がれる。 「あ……」 「荷物、持ちます。鍵締めてくださいますか?」 学生カバンの中には辞書やらが数冊入っていてすごく重いのに、その上、キャンバスをまとめて風呂敷に包まれている物まで持ってくれる。 ――実は、その風呂敷の中身こそ、彼に知られてはいけない物だったりする。 |