chapter:恋慕 僕は一度、深く深呼吸をした後、目の前にあるドアを開けた。 ――同時に、まだ慣れていない油彩の香りが、起き抜けの鼻を刺激してくる。 視界に映ったのは、普段、切れ長の細い目をしている彼が、大きく見開いている姿だ。 そんな長身の彼の前にはイーゼルの上に乗っているキャンバスが置かれ、片手にはパレットを手にしている。 今まさに、絵を仕上げようとしているところだったらしい。 ほらね、やっぱり僕の考えは当たった。 僕は自分の考えたとおり、彼の行動が当たったことが嬉しくって、内心ニンマリしてしまう。 「やっぱりいた。熱心なんだから……」 真剣な顔をしてキャンバスに描く彼。 彼はいったいどんな絵を描いているのだろうか。 美術部部長の僕でさえも、実はまだ、彼の絵を見せてもらったことがない。 「先輩!!」 僕が彼の絵を覗こうとすれば――藤堂くんは、こうしていつもキャンバスの間に立ち、僕を拒む。 ――どうして? 「どうして見せてくれないの?」 どうして皆は、貴方の絵を見ているのに、僕には見せてくれないの? 悲しい気持ちが胸に広がっていく――……。 目頭が熱くなる。 ダメ、泣いちゃダメ。 まだ彼の真意を聞いていないのに、泣いたら余計、悲しくなって、話をするどころではなくなってしまう。 だからまだ、泣いてはダメだ。 「いえ、わざわざ見てもらえるような絵でもないので!!」 |