chapter:恋慕 口角が下がってしまうのを必死に堪(こら)える僕の気持ちを知らない彼は、早口で、僕を突き放すように、そう言った。 それが余計に悲しくさせる。 でも、泣かない。 今はまだ……。 そう自分に言い聞かせるのに……だけど、ダメ。 ほんの数センチに迫っている彼の顔がまぶしすぎて、彼の目を見ることさえできない。 視線を床へとずらし、彼に言葉をかける。 「ふ〜ん、でも……。みんな見てるよね、君の絵。僕だけだよ? 君の絵を見てないの」 「そ、それは……」 しどろもどろになった彼は、身体を硬直させた。 今がチャンスだよね。 絵を見るのは今しかない。 そんなに僕に絵を見られるのがイヤなら、見てやろう。 なぜかおかしな反抗心が、僕の中で芽生えた。 「なんちゃって、えいっ!!」 僕は俯けた顔を上げて、身を乗り出し、キャンバスを覗いた。 「うわああっ!!」 今まで聞いたことがないくらい、普段冷静な藤堂くんが、耳をつんざくような大きな声を発した。 でも、彼が描いた絵を見た今の僕には、彼の悲鳴も何も聞こえてこない。 ……だって。キャンバスに描かれたのは――窓際で微笑む、僕があったから……。 「藤堂くん」 ドクン、ドクン。 やけに心音が大きく鳴り響く。 僕の口から出た彼の名前は、嬉しさのあまり、震えてしまう。 「……はい」 |