chapter:恋慕 そんな僕を見た彼は、僕がどうやら怒っていると勘違いしたらしく、さっきの僕のように項垂れ、顔を俯けている。 だけど、それは長くは続かなかった。 彼は何かを決意したかのように僕を見つめてきた。 漆黒の黒水晶の瞳が内心ドギマギしている僕を映す。 「僕に、何か言うことない?」 ――お願い、言って。 キャンバスだけじゃなくって、貴方の口から聞きたい……。 願いを込めて、黙する彼を見つめれば、彼は薄い唇を開けた。 「先輩好きです。美術部に入る前から、先輩のこと、ずっと見てました」 ――これは夢? それとも現実? 夢ならどうか、冷めないで……。 そう、願いを込めて、手の甲を少し抓ってみる。 ――痛い。 ああ、夢じゃないんだ……。 「うん、僕も!!」 貴方が好き。 僕はゆるむ口角を隠さず、彼にそう言った。 「よかった〜、言ってくれて。なんとなくそうなのかなぁって思ってたんだけどね」 昨日、キスされそうになって、もしかしたらと思った。 だけどやっぱり、違ったらどうしようとか色々考えて……。 微笑む僕に、藤堂くんは口をあんぐりと開けて呆然と立ち尽くしている。 僕の意図が理解できないらしい。 僕は彼に気持ちを理解してもらうため、さっきとは打って変わって、軽い足取りで唖然(あぜん)としている彼から遠ざかる。 |