chapter:恋慕 そうして片隅に置いてある、たくさんのイーゼルの中から、キャンバスが乗っている僕のイーゼルを裏返した。 そこに描かれているのは、黒い短髪。 ほっそりとした輪郭に乗る細い一重の目。 凛々しい彼が優しく微笑む姿――……。 「僕も好き」 すごく好き。 振り返って彼を見れば――。 うそ、まだ硬直してる。 もう! いくら朝だからって、いつまでも呆けてないで僕の気持ちをいい加減、理解してよ。 僕は、瞬きすらしない彼に近づいて、微動だにしない薄い唇に、自分の唇で塞いだ。 息を飲む彼の唇ごと、唇の感触を堪能する。 「如姫先輩……」 僕が彼の唇を覆っていると、彼は掠れた声で名を呼び、僕の腰を引き寄せてくれた。 「……っふ」 好き。 大好き。 僕は重なる唇に想いを込めて、彼の唇を堪能した。 ◆恋慕**END◆ |