chapter:思い焦がれて どうやって待てというのだろう。 もう、イヤというほど待った。 先輩に触れられないと、自分に言い聞かせたのは一度や二度じゃない。 どれほど、両想いにはなれないと自分に言い聞かせ、何度この恋を諦めようとしたことか……。 それでもやはり諦めきれなくて、往生際が悪い自分に反吐が出た。 その想いが今、先輩に届き、こうして唇を重ねている。 これは夢なのかもしれない。 現実では、俺は振られていて、先輩には見向きもされていないのかもしれない。 だからこそ、与えられたこの機会を逃したくない。 これを逃せば、もう先輩をこの手に抱けなくなるかもしれない。 だったら……先輩を抱くのは今しかない。 先輩が欲しくて堪(たま)らない。 それなのに、先輩は熱に浮かされてどうしようもない俺の身体を遠ざけ、待ったをかけてくる。 そうして、すっかり惚(ほう)けた俺の腕をくぐり抜け、けれどやはり俺とのキスに感じてくれたのか、先輩はヨタつく足取りで半開きになっている入口のドアへと向かう。 教室に帰るつもりなのか? がっつく俺を嫌いになったのかもしれない。 ――情けない。 いくら夢の中かもしれない今――。 せっかく先輩を抱けるのに、自分の夢さえも思い通りにコントロールできないなんて……。 俺は欲望深い自分に呆れ、小さなため息をこぼした。 先輩は逃げたのだと、俺はそう思った。 |