キャンバスに映る貴方
第四話





chapter:恋心





「まあそう怒るなって、その顔もそそられるけど……」

顎を持ち上げられ、近づいてくる唇にゾッとした。



今朝、涼に触れたばかりの唇。

それが彼に奪われるなんて、冗談じゃない!!



「僕に触るなっ!!」


僕へと伸ばされた手を勢いよく払い除けた冷たい音が、静かな教室に鳴り響く。


皆話をするのをやめて、こっちに注目している。

恭一と僕がどうなるのかを、固唾を飲んで好奇の目で見てくる。


毎日毎日、こうして絡まれるのはうんざりだ。




僕は席を立ち、自分が居るべき場所へと足を向けた。

長い階段を上って、ようやく着いた先は、五階。


さっき、恭一に触れられた頭や顔が気持ち悪い。



ガラッ!

僕は不機嫌なまま、乱暴にドアを開けた。




――あ……。


恭一のことで頭がいっぱいで、他には何も考えてなかった僕は、邪魔なドアが消えたちょうどその先にいる彼を見て、止まった。


僕よりも少し大きめの紺色のブレザーは、椅子の腰掛け部分に置いている。

薄手のカッターシャツから見える広い肩幅と分厚い胸。

相変わらず背筋がしゃんと伸びていて、凛々しい彼は――僕よりもひとつ年下の藤堂 涼くん。



そんな彼は、キャンバスを前に絵を描いていたらしい。

骨ばった大きくて男らしい手のひらにはパレットが乗っている。



「あ、びっくりした……。先輩も今日提出の絵の仕上げに?」


腰くらいまである連なった窓から白昼の光が教室内を照らし、光を背に受け、まるで彼自身が放つ後光のようにも見える。


- 31 -

拍手

[*前] | [次#]
ページ:

しおりを挟む | しおり一覧
表紙へ

contents

lotus bloom