chapter:恋心 神々しい彼の薄い唇がひらき、何かを告げている……。 だけど生憎、人間の僕には彼が何を言っているのか、わからない。 その姿さえも絵になって、とても綺麗……。 「先輩……?」 ああ、彼が僕の返事を待っている。 早く言葉を返さなきゃ……。 焦る心とは裏腹に、ふんわりと笑う彼の顔がすごく綺麗で、何も言うことができない。 視線は彼に釘付けだ。 「……先輩? 心桜先輩!?」 「へ? あ、う、うん」 ぼーっとしていた僕は、近づいてくる涼にも気づかず――そうして何度、名前を呼ばれただろう。 目の前に彼の顔があって初めて、返事をした。 凛々しい眉が心配そうに垂れていて、真っ直ぐな漆黒の瞳が僕を見つめている。 恭一に迫られて気持ち悪かったのに、それも忘れた僕の胸が、ときめく。 「えっと……そう。放課後までの期限だものね」 『迫ってくる山本 恭一から逃げてきました』 ――なんて、年下の涼に余計な心配をかけるわけにはいかず、僕はコクンと頷いた。 慌てて頷いた僕に何かを感じ取ったんだろう彼は、訝(いぶか)しげに顔色を窺ってくる。 心を見透かそうとする真っ直ぐな眼差しに、居たたまれない雰囲気を感じた僕は、視線を教室の空間へと移した。 明るい太陽の日差しのせいだろう。 今朝の静かな教室とは違って、今は活気にあふれている。 まるで、教室全体がおしゃべりしそうだ。 |