chapter:恋心 「綺麗だね……そうやって縋(すが)るような目も美しいよ……」 知らず知らずのうちに、僕が作っていた表情は、メッキのようにベリベリと剥がれ落ちていたようだ。 眉根に皺を寄せて怯える顔を、恭一に披露してしまった。 しまったと思った時にはもう遅い。 悔しくて、噛みしめた僕の唇に、ナメクジのような粘ついた感触がした。 恭一の親指が、さっき、涼とキスをした僕の唇に、触れられていた。 ……気持ち悪い。 恭一によって、涼とのキスが汚されそうで、彼の指を思い切り振り払う。 「怖い、怖い」 精一杯の威嚇をする僕に、両手を上げて降参だと、おどけてみせる恭一。 「放課後、話をしよう?」 彼は立ち去り際、僕の耳元で冷ややかに囁(ささや)いた。 僕は、ただただ、大きく鼓動する心臓と冷たくなっていく身体を抱きしめたい衝動を抑え、両手に拳を作って立ち尽くすしかなかった。 ――…………。 「それで、話って?」 オレンジ色の景色に舞うホコリは、綺麗でもなんでもない。 いったい誰が、舞うホコリが綺麗なものに見えるだなんて思ったのだろう。 涼といる時だけ……。 涼といるだけで、僕の世界は、綺麗なものに変わるんだ……。 日直すらも追い払い、邪魔者が居なくなったこの教室では、大嫌いな恭一と二人きり。 僕は彼と向き合い、彼の空気に押されてはいけないと、今にも逃げ出したい気持ちになる臆病になる自分を抑えて威嚇する。 |