chapter:恋心 「心桜……」 うっとりとした眼差しを向けてくる恭一は、手を伸ばし、触れてこようとするけれど、冗談じゃない。 こんな奴に触れられるなんてまっぴらだ。 僕は一歩、後ずさり、恭一との距離をあける。 「それで? 話って何?」 涼と過ごした美術室での一件は、もしかすると、恭一のカマかもしれない。 そう疑った僕は、こちらからは、その内容を言わず、彼の言葉を待つ。 「話? そんなの、心桜と一緒にいたいと思っただけの口実だよ」 ――ああ、やっぱりだ。 恭一の口から出た言葉に、僕は絶句した。 薄々とは、そうじゃないかと思っていたけれど、やっぱり……。 やっぱり、恭一が、『昼に美術室で』と言ったことはただの脅しにすぎなかったんだ……。 大嫌いな恭一と、二人きりなんて冗談じゃない。 過去に起きた恐怖が、今と重なってしまう。 「……そう」 恭一の脅しは、ただ僕と二人きりになりたいものだったということだけで何もないとわかった僕は、踵(きびす)を返し、彼から背を向けた。 早く、ここから立ち去ろう。 どんなに気丈に振舞っても怖いものは怖い。 恐怖で平衡感覚を失っているから机を避けることもできなくて、角にぶつかりそうにながらも出口へと向かう。 だけど恭一は僕の進路を阻み、腕を掴んできた。 「おっと、どこへ行くのかな?」 |