キャンバスに映る貴方
第四話





chapter:恋心





悲しかった。


苦しかった。


だけど、この出来事を話し終えた時、涼が僕から離れてしまうと思えば、それ以上に悲しい。

胸が痛い。



当時のことを思い出し、心が過去に戻っていく……。


「心桜!!」

口にした言葉を止めたのは、他でもない。

涼だった。



涼は、過去を思い出しているために冷たくなっている僕の身体を、いっそう強く、抱きしめてくれた。


「もういい。何も言わなくても良いんだ。終わったことだ。もう大丈夫だから」


――涼……。



過去の出来事は、僕にとって汚らわしいものにすぎない。

だから、強姦されそうになった僕を、涼は嫌うだろうと、そう思った。

だけど、彼は僕から逃げない。

彼はやっぱり、とても優しい男性(ひと)だった……。



「涼、涼!!」



オレンジ色の夕日に包まれる教室で、何度も愛おしい人の名を呼び、あたたかな彼の腕に包まれた僕は、たくさん泣いた。


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