chapter:恋心 悲しかった。 苦しかった。 だけど、この出来事を話し終えた時、涼が僕から離れてしまうと思えば、それ以上に悲しい。 胸が痛い。 当時のことを思い出し、心が過去に戻っていく……。 「心桜!!」 口にした言葉を止めたのは、他でもない。 涼だった。 涼は、過去を思い出しているために冷たくなっている僕の身体を、いっそう強く、抱きしめてくれた。 「もういい。何も言わなくても良いんだ。終わったことだ。もう大丈夫だから」 ――涼……。 過去の出来事は、僕にとって汚らわしいものにすぎない。 だから、強姦されそうになった僕を、涼は嫌うだろうと、そう思った。 だけど、彼は僕から逃げない。 彼はやっぱり、とても優しい男性(ひと)だった……。 「涼、涼!!」 オレンジ色の夕日に包まれる教室で、何度も愛おしい人の名を呼び、あたたかな彼の腕に包まれた僕は、たくさん泣いた。 |