キャンバスに映る貴方
第五話





chapter:甘い吐息




◆Side:Mioh Kisaki◆



学校から自宅まで歩いて約十五分。

破られた制服ではまともに外を出歩けなくて、涼にジャージを借りた。

涼は三人家族で、父親は今日は泊まりで仕事。

母親は看護師で夜勤らしい。

僕は、恭一に触れられた身体が気持ち悪くて、徒歩十分前後の涼の家で、バスルームを借りている。


一分、一秒でも早く、身体に受けた恭一の唇の感触を消したい。

涼と向かい合うのも、僕が汚れてしまったように感じて、吐き気がする。


涼が助けに来てくれて嬉しいハズなのに、キスをしてもらう度に、涼じゃない人に触れられてしまったという罪悪感が生まれていく――……。


唇を噛み締めてしまいそうになるのを我慢して、涼に、にっこり微笑むと、すぐにバスルームのドアを閉めた。




……これで一人になれる。

ほっと一息ついて、布に包まれていた身体を剥き出しにする。

触れられた胸に視線を落とせば、赤い痕跡が残っていた。

これはまぎれもなく、恭一がつけたキスマークだ……。

ムカつく。

腹が立つ。


だけどこの感情は、『僕に手を出した恭一に』じゃない。

恭一の腕を振りほどけなかった自分に対してだ……。

ギリリと唇を噛みしめ、涼が温めてくれたバスルームに入る。

少し熱めのシャワーを浴びたら、身体に付けられた恭一の滑りを帯びた、あのベトつく感覚を排除できるかと思ったけれど、やっぱり無理。


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