chapter:甘い吐息 あの、吸い付くような唇の感触が、肌にこびりついて離れない。 涼じゃない人に触れられた……。 「……っつ!!」 石鹸を付けたタオルを手にして、恭一に舐められた胸を必要以上に擦る。 だけど、気持ちが悪いというこの感覚は、一向に取れる気配がない。 涙で視界が滲む。 嫌だ。 いくら涼が、僕が体験した過去の出来事を受け入れてくれたからといっても、こんな気持ち悪い身体だと、きっと抱いてくれない。 涼に嫌われる。 そうなる前に早く、取らなきゃ……。 せっかく助けに来てくれたのに、このせいで嫌われたりなんかしたら、元も子もない。 ゴシゴシと、タオルで何度も擦ってみても、未だ感触が残っていて、嫌気がさす。 胸はタオルで擦りすぎて、少し赤くなっている。 だけど……だけどまだ足りない。 もっと擦って汚れを落とさなきゃ……。 「先輩?」 いくら擦っても消えない感触を、それでも一生懸命落としていると、バスルームのドアをノックする音と低い声が聞こえて、身体が震えた。 「あ、ごめん。もう少しだけ……」 あれからどれくらい過ぎたのだろう。 時間の経過がわからない。 僕は相変わらず、タオルで身体をきつく擦っている。 「先輩、開けますよ?」 「や、待ってまだ!!」 まだ見せるわけにはいけない。 汚れはまだ消えていない。 |