キャンバスに映る貴方
第五話





chapter:甘い吐息





あの、吸い付くような唇の感触が、肌にこびりついて離れない。

涼じゃない人に触れられた……。


「……っつ!!」


石鹸を付けたタオルを手にして、恭一に舐められた胸を必要以上に擦る。

だけど、気持ちが悪いというこの感覚は、一向に取れる気配がない。


涙で視界が滲む。

嫌だ。

いくら涼が、僕が体験した過去の出来事を受け入れてくれたからといっても、こんな気持ち悪い身体だと、きっと抱いてくれない。

涼に嫌われる。

そうなる前に早く、取らなきゃ……。

せっかく助けに来てくれたのに、このせいで嫌われたりなんかしたら、元も子もない。

ゴシゴシと、タオルで何度も擦ってみても、未だ感触が残っていて、嫌気がさす。


胸はタオルで擦りすぎて、少し赤くなっている。

だけど……だけどまだ足りない。

もっと擦って汚れを落とさなきゃ……。



「先輩?」

いくら擦っても消えない感触を、それでも一生懸命落としていると、バスルームのドアをノックする音と低い声が聞こえて、身体が震えた。


「あ、ごめん。もう少しだけ……」

あれからどれくらい過ぎたのだろう。

時間の経過がわからない。

僕は相変わらず、タオルで身体をきつく擦っている。

「先輩、開けますよ?」

「や、待ってまだ!!」

まだ見せるわけにはいけない。

汚れはまだ消えていない。





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