chapter:ヘサームとワーリー王 「申し訳ございません。急ぎ、その件の収束を図ろうと動いているのですが、なにぶん、奴らはその時々で場所を変更しているらしく……」 ヘサームはふたたび顔を伏せ、王に謝罪する。 「ふむ」 「盗人も出現するとか?」 「――――は?」 公務について責められるのかと思いきや、しかし、思いもよらない言葉が返ってきた。 ヘサームは眉根を寄せ、ふたたび顔を上げた。 「なんだ、お前知らぬのか? 何でもその盗人、かなりの腕前で、我が兵もいくらかやられたとか。 少女のような容姿なのに、たいそう腕が立つと、巷では評判だぞ?」 ワーリー王の薄い唇の端がつり上がっている。どこか楽しそうに話す彼は、本当に一国の主であろうか。 常に冷静沈着。――そして何より、威厳を漂わせている彼であっても、兄の前であれば本性が出る。 ワーリー王に秘められた内面は、おそらく限られた者にしか知らない。 彼は好奇心が旺盛だった。 だからこそ、といえばそうなのかもしれない。 今まで、先代の王たちが為し得なかった様々なことを思いつき、実行に移す。 ――たとえば、そう。 今までは血筋を重んじていた重役たちに、才ある者を昇格させるように命じたのも、彼だった。 時にその好奇心は役に立つ。それは認める。しかし、である。 ヘサームにとって、今はそうではない。 |