chapter:ヘサームとワーリー王 というのも、王の性格を隅々まで熟知しているヘサームは、余計なことを考え出さないようにと、巷の話は兵士たちに固く禁じているからだ。 ――にもかかわらず、王はそれを知っている。 ともなれば、答えはひとつしかない。 「……王、まさか。また貴方は宮殿を抜け出されたのですか?」 違うと言って欲しい。 ヘサームは、心のどこかで、自分の考えを否定してくれるのを待っていたが、ワーリー王はうなずくばかりだった。 「かたいことを言うな。何事も勉強だろう?」 「なりません!! 王! 貴方はっ!!」 「『一国の王であらせられます』だろう? だがな、ヘサーム。わしが玉座におっても、住民の声は直接耳には届いてこぬ。よりよい国を作るには、やはり、民の声を聞かねばならない。 なあ、ヘサーム。美少女とうたわれるその盗人に、一度会ってみたいとは思わないか? わしは会ってみたいぞ!!」 ……かくして、王のその時の戯れにも似た言葉が、ヘサームのその後を大きく変えることになる。 それは、ヘサームの隊が街の巡回を任された日だった。 ぎらついた太陽はいつも以上に輝き、肌を焼くような暑さの中――。 「いたぞ、盗人だ!!」 危機感を持つ兵士たちの声がさほど遠くはない街の市場から聞こえてきた。 ヘサームは、市場へと急いで駆けつけたまさにその時、人影を目にする。 |