chapter:Sell~人買い 「おにいちゃん……いっちゃ、やだ」 「兄ちゃんなら大丈夫だ。それより、これから話すことをよく聞け? 兄ちゃんの知り合いに、ヘサームっていう男の人がいるんだ。その人が食べ物を分けてくれるから、毎日そこに行くといい」 オレは妹のマスーメに、今日会った、ヘサームのことを手短に話し、地面に転がっていた手頃な木の枝を取ると、カラカラに乾ききった黄土色の土に道順を描いて説明した。 マスーメは、大きな目に涙を溜めながらも、健気に何度も頷きながら、話を聞いている。 これでマスーメも母さんも、オレがいなくても飢えることはない。 オレは自分を落ち着かせるため、ひとつ、息を大きく吐くと、木の枝を地面に置いた。 人買いは木の枝がオレの手から離れたのを合図にして、オレの手を強く引っ張った。 「アティファッ!!」 後ろから、母さんの掠(かす)れた声が聞こえる。 「母さん、今までありがと。マスーメ、母さんのこと、頼むぞ!!」 小さくなっていくふたつの影。 オレは何度も振り返る。 人買いに引きずられ、スラム街を抜けて、2人の姿が見えなくなるまで、ずっと……。 『不安』 ただ、それだけを、オレの心に宿したまま――。 |