chapter:Sell~人買い 「お願いです、後生ですからっ!!」 「はなせっ、汚らしい!!」 必死にすがりつく母さんを、男はそう言うと蹴り飛ばした。 母さんの痩(や)せ細った体が地面になぎ払われ、崩れ落ちる。 「母さん!!」 オレは、地面に倒れた母さんの体を起こしてやると、妹の細い腕を掴んでいる男を睨(にら)んだ。 「おにいちゃ......」 妹の大きな目からは絶えず、悲しみの涙が流れている。 7歳になる妹にとって、母親から離れることがどれほど苦しく、辛いことであるのか。妹の様子を見れば、すぐに理解できる。 ――いつもこうだ。 金持ちの奴らは、こうして金がないオレたちから何もかもを奪い去ろうとする。 金なら、自分たちの方が持っているっていうのにっ!! ……ムカつく。 「だったら、オレが妹の身代わりになればいいんだろう? オレなら男だし、重労働もできるから役に立つ。だからマスーメを――妹を解放しろっ!!」 「アティファ!!」 オレの言葉に、母さんは涙目になって、妹とオレを交互に見つめた。 「いいだろう」 人買いの中でも一番威厳がありそうな男は、少しの間、何かを考えるようにして、首まである黒い顎ひげを触った後、口を開いてゆっくり頷(うなず)いた。 あれほど強く握っていた妹の手を、簡単に手放した。 |