chapter:Escape~逃亡の果て ――最悪だ。 前も後ろも塞がれた。 オレに逃げ道はない。 行き交う人々は、『オレ』っていう、泥まみれで、ちっぽけな人間の運命が終わる瞬間を面白がっているのだろう。 立ち止まり、ジロジロ見てくる視線が、オレの体に突き刺さる。 「……っつ!!」 オレは唇を噛みしめ、苦しみや悲しみも知らない、のうのうと暮らしている、王の手先に捕まるのを覚悟した。 ――その時だった。 オレの右腕が、急に引っ張られた。 おかげで、オレの目の前では、抱えていたリンゴやらパン――それからメロンが、オレの目の前で宙を舞う。 そうかと思えば、オレを捕まえようとしていた前後にいる兵士たちは、『オレ』っていう標的を失ったことで、兵士同士で勢い余ってぶつかり、地面に倒れた。 それで、オレは、っていうと――……。 「うわわっ!!」 右の方向に体を引っ張られ、大人が一人分、やっと入れるくらいの、粘土とレンガで作られた家々の、壁と壁に挟まれた細い道で、尻もちをついていた。 何事かと振り向けば、そこにはオレよりも10歳くらいは年上だろうか、襟足までの波打つ黒髪の、見知らぬ男がしゃがみ込んでいた。 服装は、やっぱりこの街の人間らしい。 彼は、やはりとも言うべきか、白の上着にツギハギだらけのパンツをはいているオレとは、まったく違う。 |