chapter:Refusal~涙の理由 ビックリした。 だって、ヘサームのことについて考えていたところだったんだ。 オレはほぼ反射的に、うつむいていた顔を上げると、バシラさんの大きな目に悲しみが宿っていることに気がついた。 「わたしは、あの方の乳母なんです」 「えっ?」 突然のカミングアウトに、ビックリだ。 いや、オレ自身、なんとなく、バシラさんとヘサームとは深い関係なんだろうと思っていたけどさ……。 まさか乳母だったなんて驚きだ。 だけど、どうしてそれをオレに告げる必要があるんだろうか。 彼女がヘサームの乳母だからといって、オレがバシラさんをどうこうできるはずもないのに……。 バシラさんの意図はどこにあるんだろう。 オレは、そんなことを考えながら、バシラさんが話すのを大人しく聞く。 「ヘサーム殿のお母上様は、貧しい平民の家柄でございました。 けれども、お母上様は心身ともに、とても美しく、村一番の美女とうたわれておりました。 ある日、前王は、ヘサーム殿のお母上様の噂を耳にして、城下に足を運ばれました。 そして、そんなお母上様を、一目見て、たいそう気に入り、側室としてお側に置かれることにいたしました。 前王は、身分の隔たりも超えて、それはとてもヘサーム殿のお母上様を大切になされました。 そんなおふたりの間にお生まれになったのがヘサーム殿です。 ですが、奥方様は重い病で亡くなり、前王と本妻の王女様の間にご子息がお生まれになりました。 そのご子息が、ワーリー様でございます」 |