chapter:Refusal~涙の理由 そこまで言うと、バシラさんは何かを考えるように、一度、口を閉ざした。 ほんの少しの間、沈黙が宿ったかと思うと、バシラさんは、ふたたび言葉を紡ぎはじめる。 「ワーリー様が正式に王位を継がれると、『才ある者を分け隔て無く昇格する』という自らがお決めになった方針で、ヘサーム殿は一般兵へと格下げになりました。 ヘサーム殿は、病で倒れたお母上様のような目にあわせたくないと、貧しい人々を救うため、腕を磨き、王の利き腕ともなる兵士まで昇格なされたのです。 このことは、ごく限られた者しか知らされていない、機密事項でございますが、実はヘサーム殿は、スラム街に水路を作る計画をなされておいでなのです。 彼は、わたしたち貧しい庶民の味方なのです」 すべてを言い終えたのだろう。バシラさんは、深く、目を閉じた。 「そんな……」 そんなこと、信じられるわけがない。 スラム街に水路をつくる? ヘサームもまた、オレと同じような境遇だった? 信じられない。 バシラさんは嘘をでっちあげているのか? だとしても、嘘をつく理由がわからない。 ――もし、もしもバシラさんの言うことが本当だったとしたら……。 でもさ、だからって、オレにそんなことを告げて何になるっていうの? バシラさんはいったい、何が言いたいんだろう? オレは、彼女に尋ねるため、口を開いた。 |