chapter:甘美な身体。 鉛のように重い身体がベッドに埋まる。 脱力感に苛(さいな)まれる悠里(ゆうり)の耳には、小鳥のさえずりしか聞こえてこなかった。 (あれ? なんで?) 疑問に思ったのは、此処があまりにも静かで、教室の喧騒が聞こえてこなかったからだ。 顔の真ん中に乗っている小さな鼻の鼻孔を広げ、室内の匂いを嗅ごうとするが、鼻は麻痺しているらしく、何も香ってはこない。 不思議に思った悠里は、重い身体を起そうと、全身に力を入れる。 しかし、悠里の鉛になった身体は言うことをきいてはくれなかった。 だったら――と、自由が利かない身体の代わりに、閉じた瞼(まぶた)を開けようと、長い睫を震わせる。 だが、瞼さえも鉛のように重く、開けることができない。 瞼越しから見えるのは、外から漏れる、明るい光のみだった。 そんな中、彼の動かない身体と何も映さない視界を補うかのように、耳だけは覚醒を果たしていた。 「ええ、ええ、早く迎えに来てやってください」 覚醒を果たした悠里の耳には女性特有の柔らかな声が耳に入って来た。 (――いったい誰と話してるの?) 傍らから聞こえる女性の声には覚えがあった。 悠里は疲労しきっている頭を回転させて記憶を探る。 次第に、大きくなってきた女性の話し声。 「ええ、お願いします。保健室におりますので」 |