chapter:甘美な身体。 それはけっして、重い身体が原因などではない。 彼女と電話越しで話していた人物こそが原因なのだ。 悠里は急いで出口のドアに向かった。 「だめよ? まだ寝てなくては!! 貴方は熱があるの。もうすぐご家族の方が迎えに来てくださるから、それまでゆっくり休んでいなさい」 自分よりも華奢な細い腕をした彼女は、悠里のふらつく身体を支えながらそう言った。 彼女の眼鏡越しから伝わる気遣いをあらわす真っ直ぐな視線が悠里を映し出す。 しかし悠里は、彼女の言うことを素直に聞くことができない。 だって、悠里の父は、幼くして母と離婚をし、母親はすでに他界している。 今となって、唯一、家族と呼べるのは、遠い親戚の昴(すばる)だけだ。 その昴の職業はモデルで、しかも彼は皆に慕われた人気者だ。 ただでさえ悠里の授業料などを支払ってくれているのに、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。 悠里は常日頃から自分自身に言い聞かせていた。 それなのに――……。 自分は、自分が決めたことさえも守れないのだ。 せめて好きな人の足手まといだけにはならないようにと、切に思っていた矢先、この有様だ。 役立たずな自分が情けなくなる。 悠里は、自分の両肩に添えられていた細い腕を振り払い、昴が迎えに来るよりも先に、ひとりで帰宅しようと考えた。 |