好きと言えない。
第五話





chapter:想い、溢れて伝う涙。





(――え? この声って……)


 隣から聞こえたのはテノールの声質だ。

 男の声で、悠里の脳は一気に覚醒する。

 重い瞼をこじ開けると、目の前には……。

 金色の髪に、涼しい眼差しをした、彼、昴(すばる)がいた。



「すば……る?」

(どうしてここにいるの?)



 熱に浮かされた悠里は、自分が授業中に倒れ、保健室に運ばれたことをすっかり忘れていた。


「シーッ。黙っていて、熱があるんだ。苦しいんだから何も話さなくていい」

 薄い唇によって告げられる優しい、気遣いのある言葉は、しかし、自分と目を合わすことなく、運転手の方に顔を向けたままだ。

 こちらを向いて、言ってくれない。

 悠里の胸がぎゅっと縮こまった。



 そして、昴の言葉が引き金となり、学校で無様に倒れてしまったということを思い出した。

(昴……怒ってる?)

 自分の顔を見ない昴に、悠里は一抹の不安を抱えた。

(もしかすると、嫌われたのかもしれない)

 それもそうだ。

 だって悠里は昴に学費を払わせているのに、学校を遅刻した上、風邪をひいて、しかも大切なモデルの仕事まで中断させて、学校にまで迎えに来させたのだから……。

 自分さえいなければ、昴はいつもどおり、つつがなく仕事ができていたし、いらない出費も増えなかった。


 すべては、自分を引き取ってしまった為に起こった出来事だ。


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