chapter:想い、溢れて伝う涙。 (――え? この声って……) 隣から聞こえたのはテノールの声質だ。 男の声で、悠里の脳は一気に覚醒する。 重い瞼をこじ開けると、目の前には……。 金色の髪に、涼しい眼差しをした、彼、昴(すばる)がいた。 「すば……る?」 (どうしてここにいるの?) 熱に浮かされた悠里は、自分が授業中に倒れ、保健室に運ばれたことをすっかり忘れていた。 「シーッ。黙っていて、熱があるんだ。苦しいんだから何も話さなくていい」 薄い唇によって告げられる優しい、気遣いのある言葉は、しかし、自分と目を合わすことなく、運転手の方に顔を向けたままだ。 こちらを向いて、言ってくれない。 悠里の胸がぎゅっと縮こまった。 そして、昴の言葉が引き金となり、学校で無様に倒れてしまったということを思い出した。 (昴……怒ってる?) 自分の顔を見ない昴に、悠里は一抹の不安を抱えた。 (もしかすると、嫌われたのかもしれない) それもそうだ。 だって悠里は昴に学費を払わせているのに、学校を遅刻した上、風邪をひいて、しかも大切なモデルの仕事まで中断させて、学校にまで迎えに来させたのだから……。 自分さえいなければ、昴はいつもどおり、つつがなく仕事ができていたし、いらない出費も増えなかった。 すべては、自分を引き取ってしまった為に起こった出来事だ。 |