好きと言えない。
第五話





chapter:想い、溢れて伝う涙。







 悠里(ゆうり)は、いまだに覚醒しきれていない、熱に犯された中にいた。

 目は、まだ開かない。

 開けようと思っても、思いのほか瞼が重い。

 しかし、周囲がなにやら騒がしい。

 悠里の耳の端では、女子たちが放つ黄色い声が聞こえている。

 その声が、熱がある悠里を不快にさせる。


(――耳が……頭がいたい)


「う……ん」


 悠里は苦しくなって小さく呻く。

 だがそれとは別に、自分の身体を包む、ひんやりとした力強い何かが、とても気持ちいい。

 まるで、身体が風船のようになり、空を飛んでいるかのようだ。

 悠里は、自分を包むその正体も知らないのに、このまま離さないでほしいと思った。

 だから、手を伸ばし、自分を包み込む力強いソレに、そっとしがみついてみる。

 すると、外野から放たれる黄色い声がさらに大きくなった。

「う…………ん」


 黄色い声が、熱に浮かされた悠里の身体を蝕む。

 けれど、耳障りな黄色いその声は、長くは続かなかった。

 悠里を襲う、不快な黄色い声は次第に遠ざかり、最後には消えていった。

 同時に、悠里の身体は背もたれのある椅子に沈めらる。

 うつらうつらとした悠里の耳には、車のエンジン音と、熱に浮かされた身体には細かな振動が響いた。


「19番地にあるグランゼールマンションまでお願いします」


 声は突然、悠里のすぐ隣から聞こえた。


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