chapter:想い、溢れて伝う涙。 悠里(ゆうり)は、いまだに覚醒しきれていない、熱に犯された中にいた。 目は、まだ開かない。 開けようと思っても、思いのほか瞼が重い。 しかし、周囲がなにやら騒がしい。 悠里の耳の端では、女子たちが放つ黄色い声が聞こえている。 その声が、熱がある悠里を不快にさせる。 (――耳が……頭がいたい) 「う……ん」 悠里は苦しくなって小さく呻く。 だがそれとは別に、自分の身体を包む、ひんやりとした力強い何かが、とても気持ちいい。 まるで、身体が風船のようになり、空を飛んでいるかのようだ。 悠里は、自分を包むその正体も知らないのに、このまま離さないでほしいと思った。 だから、手を伸ばし、自分を包み込む力強いソレに、そっとしがみついてみる。 すると、外野から放たれる黄色い声がさらに大きくなった。 「う…………ん」 黄色い声が、熱に浮かされた悠里の身体を蝕む。 けれど、耳障りな黄色いその声は、長くは続かなかった。 悠里を襲う、不快な黄色い声は次第に遠ざかり、最後には消えていった。 同時に、悠里の身体は背もたれのある椅子に沈めらる。 うつらうつらとした悠里の耳には、車のエンジン音と、熱に浮かされた身体には細かな振動が響いた。 「19番地にあるグランゼールマンションまでお願いします」 声は突然、悠里のすぐ隣から聞こえた。 |