好きと言えない。
第五話





chapter:想い、溢れて伝う涙。





 代わりにあるのは、背中に回った昴のたくましい腕だ。

 おかげで昴との距離はまた縮まってしまう。

「悠里……」


「いやっ、だめ!! 昴に風邪、うつっちゃう!!」


 昴にはこれ以上、迷惑はかけられない。

 それでも、昴には捨てられたくない。

 わがままな自分がいる。



 身じろぐ悠里の頭上から昴の笑うような吐息を感じ、思わず上を向いてしまった。

……そこには――大きく弧を描く唇と、虎目石の瞳を細めた彼の顔があった。



 ドキン。

 それはあまりにも優しい微笑みだったから、悠里の心臓は大きく跳ねた。

「それで?」


 しかし、薄い唇から吐き出される昴の言葉は、なんとも挑発的だった。

 昴は、『何故、悠里が自分に迫ってきたのか』を問うているのだ。


「……っつ」

 悠里は逃げ出したい衝動に駆られた。

 けれど、たくましい腕が自分の背中にまわっている。

 おかげで逃げることもできやしない。


 悠里は渋々といった具合で、昴に迫った理由を話しはじめる。

「昴……から、学費を出してもらってるのに……ぼく、何もできない。それどころか、風邪までひいて、仕事中の昴に迷惑かけたし……学校にも……昴がぼくの保護者だって、バレた……。昴が喜ぶこと、何もしてあげてない……」

『昴には迷惑しかかけていない』


 そう口にすれば、悠里の中にある悲しみはいっそう膨れ上がる。


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