chapter:想い、溢れて伝う涙。 代わりにあるのは、背中に回った昴のたくましい腕だ。 おかげで昴との距離はまた縮まってしまう。 「悠里……」 「いやっ、だめ!! 昴に風邪、うつっちゃう!!」 昴にはこれ以上、迷惑はかけられない。 それでも、昴には捨てられたくない。 わがままな自分がいる。 身じろぐ悠里の頭上から昴の笑うような吐息を感じ、思わず上を向いてしまった。 ……そこには――大きく弧を描く唇と、虎目石の瞳を細めた彼の顔があった。 ドキン。 それはあまりにも優しい微笑みだったから、悠里の心臓は大きく跳ねた。 「それで?」 しかし、薄い唇から吐き出される昴の言葉は、なんとも挑発的だった。 昴は、『何故、悠里が自分に迫ってきたのか』を問うているのだ。 「……っつ」 悠里は逃げ出したい衝動に駆られた。 けれど、たくましい腕が自分の背中にまわっている。 おかげで逃げることもできやしない。 悠里は渋々といった具合で、昴に迫った理由を話しはじめる。 「昴……から、学費を出してもらってるのに……ぼく、何もできない。それどころか、風邪までひいて、仕事中の昴に迷惑かけたし……学校にも……昴がぼくの保護者だって、バレた……。昴が喜ぶこと、何もしてあげてない……」 『昴には迷惑しかかけていない』 そう口にすれば、悠里の中にある悲しみはいっそう膨れ上がる。 |