chapter:この腕に抱く秘密。 けれど、その考えはすぐに打ち消された。 悠里の身体が、思いのほか熱い。 昴は、悠里が倒れたというのは本当らしいことを理解した。 昴の腕の中にいる悠里は、赤い唇から吐き出されている呼吸も荒い。 意識も何処か散漫になっていた。 どうやら目の前にいる養護教諭は、熱に浮かされ、苦しげにしている悠里を奪おうとしていたらしい。 教諭でもある彼女が、生徒の身体を気遣わず、奪おうとするなんて……。 昴はサングラス越しに冷ややかな目で養護教諭を一瞥(いちべつ)すると、保健室を後にした。 力なくぐったりとしている悠里を横抱きにすると、足早に廊下を進む。 どうやら、1時限目は終了したようだ。来る前は静かだった廊下は賑やかになっている。 横抱きにしている悠里と、彼を抱えた昴を見た生徒たちの黄色い声とに見送られ、学校を出た。 校門に待たせていた、撮影所から乗り合わせた黒いタクシーの中へ悠里を押し込むと、昴も後部座席に座わる。 「グランぜールマンションまで」 昴が丁度、タクシーに自宅へ向かわせるよう指示を出した時、悠里の瞼が小刻みに震えた。 たったそれだけの仕草。 けれど昴は、他愛もない細やかな仕草であっても、見逃さない。 それだけ、昴は彼に執着していた。 自分だけが身を焦がすほどの深い想いを抱いているのだと思い知れば、無防備に眠っている悠里に苛立ちを隠せずにはいられない。 |