chapter:拒絶。 そう自分に言い聞かせ、人気のないダイニングキッチンでひとり、寂しく昴を待つ。 それでも、昴が一向に帰ってくる気配はない。 悠里はとうとう痺れを切らし、思いきって昴の携帯に電話をした。 『もしもし……』 長いコール音が3回ほど連続で聞こえた後、張りのあるテノールが耳に入った。 昴だ。 やっぱり昴は無事だ。 悠里は嫌な考えで締めつけられていた胸をひと撫でして、喉から声を絞り出す。 「もしもし、昴? あの、お仕事まだ終わらない?」 思いのほか声が小さかったのは、もしもまだ昴が仕事中だったら申し訳ないという気持ちと、早く家に帰ってきてほしいと催促の電話だと、思われたくなかったからだ。 いくら弟のように思ってくれているとしても、所詮(しょせん)は他人にすぎない。 昴は、ただの同居人に縛られることを嫌うだろうから――。 そんな悠里の耳には、昴の声とは別に、緩やかな曲も聞こえてきていた。 だからそこは仕事場ではないと、容易に察しがつく。 曲調からして、何処かのバーか何かだろうか。 時折、女性の軽やかな笑い声が聞こえる。 もしかすると、昴は例のスキャンダルになっている女優といるのかもしれない。 悠里がつくったご飯を食べずに……。 そう思えば、悠里の胸は痛みを増し、息苦しくなる。 |