好きと言えない。
第八話





chapter:拒絶。





 そう自分に言い聞かせ、人気のないダイニングキッチンでひとり、寂しく昴を待つ。

 それでも、昴が一向に帰ってくる気配はない。


 悠里はとうとう痺れを切らし、思いきって昴の携帯に電話をした。



『もしもし……』


 長いコール音が3回ほど連続で聞こえた後、張りのあるテノールが耳に入った。

 昴だ。


 やっぱり昴は無事だ。

 悠里は嫌な考えで締めつけられていた胸をひと撫でして、喉から声を絞り出す。

「もしもし、昴? あの、お仕事まだ終わらない?」


 思いのほか声が小さかったのは、もしもまだ昴が仕事中だったら申し訳ないという気持ちと、早く家に帰ってきてほしいと催促の電話だと、思われたくなかったからだ。


 いくら弟のように思ってくれているとしても、所詮(しょせん)は他人にすぎない。

 昴は、ただの同居人に縛られることを嫌うだろうから――。


 そんな悠里の耳には、昴の声とは別に、緩やかな曲も聞こえてきていた。


 だからそこは仕事場ではないと、容易に察しがつく。

 曲調からして、何処かのバーか何かだろうか。

 時折、女性の軽やかな笑い声が聞こえる。


 もしかすると、昴は例のスキャンダルになっている女優といるのかもしれない。

 悠里がつくったご飯を食べずに……。


 そう思えば、悠里の胸は痛みを増し、息苦しくなる。


- 70 -

拍手

[*前] | [次#]
ページ:

しおりを挟む | しおり一覧
表紙へ

contents

lotus bloom