chapter:恋着。 樟葉が、『悠里くん』と名前を呼ぶのを聞いた瞬間、昴の中で抑え込んでいた熱いものが一気に流れ出るのを感じた。 昴は勢いよく椅子から腰を上げると、懐から無造作に飲み代を取り出し、大きな車道を走っていたタクシーを適当に拾うと、バーを後にした。 芸能活動をしている昴は、マスコミに自分の居場所を突き止められないよう、事務所に掛け合い、これまで悠里を守ってきた。 その理由は、自分と共に暮らしているとマスコミに知られれば、神経に過敏な悠里は何かと気苦労を重ねてしまうだろうと思ったからだ。 そして、理由はもうひとつ。 昴も悠里といる時だけはくつろぎたかった。 モデルという完璧な姿を保とうとする昴にとって、そこは自分を偽る場所でしかない。 だが、悠里といる時だけは、昴は自分を偽らずに過ごせる。 自分の居場所は、やはり悠里の隣にしか成り立たないのだ。 そう考えれば考えるほど、悠里の傍にいたいと強く願う。 しかし、彼の傍にいると、また悠里を抱きたくなるのも事実だった。 そんなことをすれば、また危ない目に遭う。 昴は、自分の愚かな考えを押し殺すため、小さく頭を振った。 悠里がいる家までの道のりは思いのほか遠く感じる。 やっとのことで目的地に着いた昴は、会計を済ませ、足早に自宅へと急いだ。 如何に悠里と距離を置こうと考えていても、身体はやはり正直だ。 |