chapter:こいごころ だけどオレは、辛抱強く、何も話そうとしない幸をしっかり見据える。 でも……幸に嫌われたのかもしれないと思えば、視界が涙で滲む。 幸の背中でさえもまともに見られなくなるんだ。 「幸、オレっ!!」 言ったその時だった。 コンコンとドアをノックする音が静かな部屋に木霊する。 誰だろうと考えてみるけど、動物病院の受付係として仕事をしている、加奈子(かなこ)しかいないことに気がついた。 「はい、どうぞ」 幸はオレの時とは違う、明るい声で中へ入るよう、うながした。 ――なんで? オレの時は、そんな優しい声、出さないのに……。 なんで彼女だと、そんな優しい声になるの? そりゃ、発情期で幸に迷惑かけたけどさ……。 でも、なんとかするって、オレ、言ってるじゃんか!! 苛立つオレを余所(よそ)に、扉はひらき、部屋の中へと加奈子が入って来た。 相変わらず加奈子はかわいい。 茶色い大きな目に、ふっくらした桃色のほっぺたと小ぶりな唇。 白い肌に映える桃色のワンピースから覗くほっそりとした足。 幸よりも頭ふたつ分くらい違う身長は、とてもかわいらしい。 「おはよう、加奈子ちゃん」 微笑む幸に、微笑み返す加奈子。 その先で、加奈子と目が合ってしまった。 加奈子はオレを見ると首を傾げ、「あれ?」と声を出す。 「あの、鏡(かがみ)さん? この子は?」 |