chapter:こいごころ すると今度は、オレから視線を外し、幸を瞳に映した。 加奈子の質問で、ここへきてはじめて、幸とオレの目が合った。 やっとオレの顔を見てくれるようになったことが嬉しい反面、このことがなかったら、オレとは顔を見合わせる気がなかったのかと思うと、悲しくなる。 「あ、この子は……」 あ、そうか。 オレ、妖狐の姿でしか加奈子に会ったことなかったんだっけ……。 そのことを思い出し、内心苦笑した。 「俺の従弟(いとこ)なんだ。怪我をしてしまってね、一人暮らしだと何かと不自由だからと一緒に暮らしているんだよ」 「あ、そうなんですか」 幸の作り話を聞いて、疑うことなくうなずく加奈子は純粋だ。 だけどまさか、『オレが狐の古都です』なんて言えないしな。 ここは何も言わず、幸に任せよう。 「わたし、神崎 加奈子(かんざき かなこ)って言います。よろしくね」 そう言って、右手を差し出す加奈子に、今さらだと苦笑しつつ、オレも左手を差し出した。 「よろしく。オレ、古都(こと)」 オレは加奈子から差し出された右手を左手でふんわり握ると、加奈子は目を大きく開けた。 「キミも古都って言うの?」 あ、しまった。 古都って、狐の時と同じ名前だ。 ……なんて思っても、もう言ってしまったことは取り消せない。 オレは知らんぷりで突き通すことにした。 |