chapter:こいごころ 「あ、たしか、ここに居る狐の名前も古都って言うんだよな。偶然だな」 あはは、と乾いた笑いを浮かべるオレに、加奈子も微笑んだ。 「あ、そう言えば、今日は古都ちゃんどうしてますか?」 「あ……。ああ、今は寝ているんだよ」 幸はすかさず返事をした。 「あ、そうなんですか……。起こしちゃマズいですよね。古都ちゃんの顔、しばらく見てないから、会いたいなって思ったんですけど……」 しょんぼりする加奈子の表情は、ほんとに残念そうだ。 できることなら、狐の古都に会わせてやりたい。 だけど、狐の古都はオレで、でもって人型として加奈子の目の前にいる。 ……ごめんな。 心の中で加奈子に謝るオレ。 「鏡さん、時間ですよ。準備しなきゃ!!」 「え? あ、ああ……」 「じゃ、またあとでね。古都くん」 加奈子は、オレに挨拶をすると、幸の背中をグイグイ押して一階へと下りて行った。 そんなふたりの姿を見ていると、オレ、蔑(ないがし)ろにされてるみたいだ。 ……チクン。 また胸が痛んだのは、気のせいなんかじゃない。 オレはひとり、広いキッチンに取り残され、ふたりが一階に消えてしまってからも、呆然と立ち尽くしていた。 ……シン。 静まり返った空間の中で、いたたまれなくなったオレは、あんなに大好きだった朝ごはんのサケに手をつける気にもなれず、三階の部屋に戻った。 パジャマにも着替えず、またベッドに寝転ぶ。 |