chapter:こいごころ チクチク。 チクチク。 胸が痛むのは、大好きな幸から離れなきゃいけないって思うのと、迷惑ばかりかけてしまった自分の不甲斐(ふがい)なさを思い知らされるからだ。 黒のスニーカーは、履くとオレの足を締めつけ、傷口に響くけど、そんなことは気にしていられない。 ふたりが戻って来るまでに、ココを出なきゃ。 家は……鍵がかかってないから不用心だけど……。 それでも、オレがココにいると、神楽に見つかったら不用心どころじゃないから、まだマシだろう。 オレは痛む胸を押さえて、世話になった幸の家を背中に向け、後にした。 行先なんて、分からない。 だけど、ココにいちゃいけない。 でも結局は、大好きな幸がいないところなんて、どこだって一緒なんだ。 外に出ると、少し傾きかけているお日さまは、まだ白い。 限りなく広がった青い空を見上げ、オレはそっと息を吐いた。 オレ……。 とうとう、ひとりになっちゃった。 心もとない気持ちになりながら、ゆっくり足を進める。 幸の家をグルリと囲むコンクリートの塀に背中を向け、真っ直ぐ前に向かって歩く。 『あれ? 兄貴じゃん?』 心細い気持ちでひとり、歩いていると、突然、知っているような声が聞こえて後ろを振り向いた。 一匹の三毛猫が、塀の上にいた。 あれ? あの猫って……。 どこかで見たような……。 |