chapter:こいごころ 大げさだと言ったら、リンは、いやいや、と首を振って命の恩人だからと力説しはじめた。 そんなリンは、今、散歩中だとか。 『そうだ。兄貴、行くあてないならさ、俺んち来いよ。婆さんならきっとわかってくれるさ』 リンは大きく目をひらいて、輝かせる。 だけど……ムリだ。 リンや婆さんに迷惑をかけることはできない。 オレは首を振って、リンの好意だけを受け取った。 今のオレは現状を忘れ、和やかな時間を過ごしていた。 ふと、空を見上げると、太陽は傾き、燃えるように真っ赤があった。 まるで……父さんと母さんが流した……血のように……。 嫌なことを思い出した瞬間だ。 突然、寒気を覚え、オレの身体が震えた。 両手を自分の身体に回して震えを止めようとするけど、それでも止めることはできない。 だからきっと、これは肉体的な寒さじゃなくて、もっと根本的な、感覚による寒さだと思った。 『兄貴?どうしたの?』 リンは、身体を丸めるオレを何事かと、様子を窺(うかが)ってくる。 次の瞬間、リンは、だけど唸り声をあげて毛を逆立てた。 どうやらリンも気がついたみたいだ。 異様な、無数に突き刺してくる針のような、冷たい殺気を含んだ空気に……。 「リン、逃げろ。ここはマズい」 オレは唸り声をあげるリンを、そっと背中に隠す。 この気配は間違いない。 神楽だ。 神楽の匂いがする。 神楽は、とうとう、オレの居場所を見つけた。 |