chapter:こいごころ 今さら逃げても、きっと、もう遅い。 オレの足はこんな状態だ。 すぐに見つかってしまうだろう。 だったら、少しでも抵抗して、なんとかするしかないよな……。 『だけど、兄貴は!?』 神楽と戦う決意をしていると、リンは顔色を窺うようにオレを気遣う。 「オレは平気、この気配は……たぶん神楽だ」 『だったら余計危ないじゃん!! 兄貴をひとりにするなんて俺には!!』 「大丈夫。オレって妖狐だかんな。実は、神楽よりも強いし……それに、あいつはオレを欲しがっている。殺されはしない。 だけど、リン。お前は違う。神楽に刃向えば、お前は殺されちまう」 『兄貴!!』 縋(すが)るような視線を、後ろにいるリンから感じるけど、オレは振り向くことなく、説得を続ける。 「オレな、もう父さんや母さんみたいに目の前で誰かが殺されるの、見たくないんだ」 『だけど!!』 「な、頼むから……」 いつまでも首を横に振り続けるオレに、リンは、ようやくうなずいてくれた。 オレから背中を向け、リンは颯爽(さっそう)と走り去る。 ――これでいい。 これで、誰も傷つかない。 オレは目を閉じ、近づいてくる狂気が目の前に来るのを待った。 一秒を過ぎるごとに、鋭い凍てつくような視線が、こちらへと近づいてくる。 言いようのない、凍てつくような寒さがオレを襲う。 震えが止まらない。 「っく……」 |