迷える小狐に愛の手を。
第十五話





chapter:蜜に溺れる身体







……寒い。

なんだかわからないけど、すっごく寒い。


オレは、強烈な寒気に襲われ、意識を取り戻した。


――いや、寒いだけじゃない。

鋭い刃物を心臓に突き付けてくるような、そんな冷たい空気も感じる。


鋭い刃物。


凍てつく寒さ。

この寒気は、なに?


「……っ!!」

オレは急に息苦しくなって、重い瞼(まぶた)を開けた。

目の前に広がっているのは、冷たい色彩をした、灰色の天井だ。



ここは……?


顔を左右に動かし、周囲を探れば、オレがいるそこは狭くて、ジメジメした部屋だった。

窓はひとつしかないし、その窓にはカーテンというものは存在しない。

それに、この部屋にあるのは腰くらいまでの背の低いタンスだけだ。

ココには、幸(ゆき)の家のような、あたたかみはまるでない。

牢獄のような、冷たい部屋だ。


オレ、こんな部屋、知らない。


見たこと、ない。


オレ、なんで、見たこともない部屋にいるの?


ココ、どこ?


「やあ、古都(こと)。お目覚めかな?」

声がする方へと、視線を少しずらしたその先には、たったひとつしかない窓から差し込んでくる、血のように真っ赤な夕陽を背に浴びた、漆黒の髪と瞳を持つ、神楽(かぐら)がいた。

長身で整った顔立ちをしている彼は、無表情だとさらに冷淡に見える。





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