chapter:蜜に溺れる身体 ……寒い。 なんだかわからないけど、すっごく寒い。 オレは、強烈な寒気に襲われ、意識を取り戻した。 ――いや、寒いだけじゃない。 鋭い刃物を心臓に突き付けてくるような、そんな冷たい空気も感じる。 鋭い刃物。 凍てつく寒さ。 この寒気は、なに? 「……っ!!」 オレは急に息苦しくなって、重い瞼(まぶた)を開けた。 目の前に広がっているのは、冷たい色彩をした、灰色の天井だ。 ここは……? 顔を左右に動かし、周囲を探れば、オレがいるそこは狭くて、ジメジメした部屋だった。 窓はひとつしかないし、その窓にはカーテンというものは存在しない。 それに、この部屋にあるのは腰くらいまでの背の低いタンスだけだ。 ココには、幸(ゆき)の家のような、あたたかみはまるでない。 牢獄のような、冷たい部屋だ。 オレ、こんな部屋、知らない。 見たこと、ない。 オレ、なんで、見たこともない部屋にいるの? ココ、どこ? 「やあ、古都(こと)。お目覚めかな?」 声がする方へと、視線を少しずらしたその先には、たったひとつしかない窓から差し込んでくる、血のように真っ赤な夕陽を背に浴びた、漆黒の髪と瞳を持つ、神楽(かぐら)がいた。 長身で整った顔立ちをしている彼は、無表情だとさらに冷淡に見える。 |