chapter:蜜に溺れる身体 オレ……このままなのか? このまま、神楽を求めてしまうのか? 大好きな幸じゃなくて……。 ――ああ、だけど幸には加奈子がいる。 それにオレ、幸に避けられるくらい嫌われている……。 オレ、どっちにしても、幸とはもう……会えないんだ。 絶望がオレの心を蝕(むしば)みはじめる。 その時だった。 『……にき』 声が……聞こえたんだ。 『……にき』 気のせいかとも思ったけど、どうやら違うみたいだ。 だって、この声に聞き覚えがあったから……。 『あにき……』 オレは呼びかけられる小さな声の正体を知るために、涙で溢れている目を瞬(しばた)いた。 『兄貴、大丈夫?』 声は、唯一解放されている外と通じる窓辺から聞こえる。 「う……ぁあっ」 窓辺にいるだろう人物を見ようと、熱がこもっている身体を少し動かせば、身体の上に被せられている神楽のコートが擦れた。 たまらない疼きがオレを襲う。 『兄貴、どうしたの? アイツにやられたの?』 ほんの少しだけ、なんとか窓辺で話しかけてくる人物を視界の端にかすめ取ることができた。 逆光だったから輪郭しか分からない。 だけど、呼びかけられる正体を知るのは、それだけで十分だった。 「り……ん…………」 オレは喘いでしまう声を必死に抑え、彼の名を呼ぶ。 そのせいで、声は掠れていて、ほとんど聞き取れないだろう。 |