chapter:蜜に溺れる身体 だけど、それは通常の人物ならの話だ。 だって、オレに話しかけている人物は、人間じゃない。 窓のところにいるのは人間じゃなくて……。 ――幸の病院で手当を受けるよう、オレが説得をした、あの三毛猫リンだ。 神楽と出会う直前、別れたリンが……。 オレに、会いに来てくれた……。 動物の直観は人間よりも敏感だ。 神楽の狂気じみた気配は、猫のリンにとって、恐ろしいものだ。 それなのに、リンは身の危険も顧(かえり)みず、ここまで来てくれた。 『兄貴、よかった。殺されたんじゃないかと思ってさ……。ソレ、外すから!!』 リンはそう言うと、タン、っと窓辺からベッドの端へとジャンプした。 リンの重さでベッドのシーツが張る。 「やっ。ああああああんっ」 背中にあてがわれているシーツが擦れて身体に響く。 リンはオレの反応に驚き、身体を縮こませた。 「りん……ゆっくり……おねがっ……」 リンはオレに何が起きているのかが分からないんだろう。 今は言葉では伝えられないから、オレは胸の内で、ありがとうと告げた。 リンは、ひとつうなずくと、今度はゆっくりオレに近づいた。 『ロープ、取るね。固いから、もしかすると兄貴を傷つけるかもしれない……』 リンはオレに同意を求めてくる。 でも、たぶん痛みはないだろう。 だって、薬で身体の神経は麻痺している。 痛みは疼きに変わるだろうから。 |