迷える小狐に愛の手を。
第十九話





chapter:お日さまを失った日。







「ふっ。ひっく……ゆきぃぃ……」

せっかく紅(くれない)兄ちゃんが神楽(かぐら)から逃げる時についてしまった顔の傷に絆創膏(ばんそうこう)を貼ってくれたのに、流れる涙で剥(は)がれてしまった。

また、醜い傷がオレの顔にあらわれる。


泣きじゃくるオレの前には、大きな妖狐の姿をした幸(ユキ)が四本の足を鎖で繋がれ、冷たい地面に横たえている。


ココは暁(アカツキ)兄ちゃんの家の地下室。

暁兄ちゃんの家はすごく大きい。

なんでも、人間の世界の『びじねす』に成功して、土地を買ったらしい。

この土地は、大きな木々で囲まれ、まるで林の中にいるみたいだ。

オレたちが生まれ育った故郷の山のようで、どこか懐かしい。


だけど、今、オレと幸がいる、この地下だけは違う。

高いところにある窓は一カ所だけだし、コンクリートの冷たい壁に覆われた、すごく寂しい大きな部屋だ。

電気の明かりもない。

明かりといえば、唯一、この部屋にある、高い窓から差し込む、暗闇を照らす月明かりだけ……。

窓から、まん丸いお月様がココにいるオレと幸を照らす。


月光に導かれて視線を下ろせば、幸の四本の足が頑丈な鎖で拘束されているのが目に入る。

鎖の先には四隅に杭が打たれ、そこに幸と繋がった鎖がハメこまれている。

幸は、暁兄ちゃんに気絶されたまま、ココに運び込まれた。


たぶん、幸が気絶してから一時間は経過しているはずだ。





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