迷える小狐に愛の手を。
第十九話





chapter:お日さまを失った日。





オレの命が危険だと、もたらされる激痛が教える。

鋭い牙で捕らわれた肩口からは、血が勢いよく吹き出した。

唸り声を上げながら、オレを噛み殺そうとする幸の力は恐ろしいくらいに強い。

痛覚は次第に消え失せ、頭の中が真っ白になっていく。

たくさんの『ごめん』を込めて幸に伸ばした手が、幸の頭部を包むことに成功した。



ふんわりとした幸の毛並みや、匂いは、もう分からない。


でもきっと幸は、妖狐になっても、ひだまりのようなあたたかさは一緒なんだろうな。


「ごめん。ごめんな、ゆき。オレが神楽から逃げた所為で、幸の意識を殺してしまった。幸はただ、苦しむオレを救おうとしただけなんだよな。
……それなのに、オレは人間だった幸を殺してしまった。
ほんと……ごめんな……」


……スルリ。

目尻から耳に向かって、一筋の涙が流れはじめる。

この涙は、傷が痛いからとか、苦しいからとかじゃない。

幸を想っての涙だ。

幸ならいい。

幸が……せめて楽に生きていけるなら、オレの命なんていらない。

オレの命は、幸が助けてくれたもの。

もらったものを返すだけ。

ただ、それだけだ。


オレは抵抗ひとつせず、そっと目を閉じた。

瞼(まぶた)の裏では、目を細めて笑う幸の顔が見える。


『大丈夫だよ』
『古都は、かわいいね』

オレを包んでくれた幸。





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