chapter:大きな傷を抱えて。 ふんわり、浮いたんだ。 「大丈夫? 痛かったね。怖がらせてしまって、ごめんね」 『っ!!」』 その声に目を開ければ、穏やかに微笑むソイツの姿があったんだ……。 そうやって、男は、オレの頭をまた、さっきと同じように撫ではじめる。 ……なんなんだよ、調子狂う。 オレはお前に噛みついたんだぞ? しかも、痛いのはオレじゃなくて、お前じゃん。 それなのに、コイツはオレを心配して撫でてくるし……。 なあ、お前は神楽の仲間じゃないのか? オレはここへきてはじめて、目の前のソイツにクンクンと鼻を鳴らした。 匂いを嗅げば、オレたち妖狐族とは違う肌の匂いがあった。 どこかクセのある、歯の奥がギュってなる匂いと――。 あたたかな……母さんの隣にいるような匂いがした。 そしてオレは、コイツが人間なんだって気がついたんだ。 神楽の手先じゃない? だけど、いくら神楽の手先じゃないっていっても、コイツを簡単に信用するわけにはいかない。 だって、オレの父さんはいつも言っていたんだ。 『人間は無力な分、いろんな物をつくって獲物を捕る』んだって。 『頭がかしこいから、近づく時は用心しなさい』って。 だけど、オレは、頭を撫でられて悪い気はしない。 ……仕方がないから、もう少しだけ撫でさせてやるよ。 オレはうっすらと目を閉じて、頭を撫でられる感触を味わっていた。 |