chapter:大きな傷を抱えて。 そんな中、ふと思ったのはコイツの名前だったりする。 いや、『コイツ』とか『ソイツ』とか言うのって紛らわしいからな。 なんて考えていると、頭上からオレの思ったことが分かったように、ソイツは口をひらいた。 「俺の名前は、鏡 幸(かがみ ゆき)っていうんだ。これからよろしくね」 へぇ〜、幸っていうんだ。 ま、どうでもいいけどさ。 「君は?」 ――なんて心の中でうなずいていると、幸は、目線をオレと同じ高さにして、尋ねてきた。 「君の名前はなんて言うのかな?」 えっ? オレの名前? 尋ねられたけれど、オレは今、狐の姿だし、尻尾も一本しかないから妖力がない。 人間の言葉を使えない。 ――本来、妖狐は九尾の狐と言われる妖怪の一種だ。 人の姿に化けて人間を襲ったり、困らせたり、食い物を奪って生きていたりする。 父さんは立派な九尾の狐としてあやかしの中ではけっこう名が知れている。 母さんの毛並みもすごく綺麗で、同族の間じゃ美女として人気なんだ。 かく言うオレの容姿は、今は神楽にやられたせいで弱っていているから、一個しか尻尾はないけれど、本来は父さんのような立派な九尾の尻尾があって、母さんに似ているとよく言われる。 だけど、男のオレとしては母さんに似るよりも父さんの方が嬉しかった。 だってオレときたら、大きなくりっとした目にちょこんと真ん中に乗ってる小さな鼻。 |