chapter:妖狐族の王 それは、滅多に見ることのない光景なんだということが理解できる。 「くそっ!! 何故だ!! 何故、たかが人間に俺が圧されるんだ!!」 神楽は困惑し、幸へと向ける刃をひくと、すぐに振り上げる。 だけど、幸は神楽の攻撃をすべて見透かしたかのように、繰り出される剣を、意図も容易く抑え込んだ。 刃と刃がぶつかり合うたび、周囲には金属の鋭い音が鳴り響く。 「神楽が……父さんを殺した神楽が……圧されてる……」 「これが……人間の強さ、か……」 「えっ?」 ぽつり。 暁兄ちゃんは、感嘆の声を上げた。 「人間には潜在能力というものがあって、何かを守ろうとした瞬間、恐ろしいほどの力を出すのだと、父さんから聞いたことがある」 恐ろしい力……。 「さしずめ幸さんの場合は、想う力……といったところかな」 紅兄ちゃんは、暁兄ちゃんに続き、そう言うと、口角を上げて神楽と向かい合っている幸を見ている。 想う、力……。 それは……加奈子(かなこ)を想う力ってことか……。 幸は、関係ない加奈子を連れ去ったことに怒っているんだ。 そんなにまで、幸は加奈子が好きなんだな。 そして加奈子も……。 あっ、そういえば加奈子はあれからどうしたんだろう。 「兄ちゃん……加奈子は?」 「加奈子? ああ、神楽に捕らわれていた人間のことか。それなら大丈夫だ。ここに来るまでに、彼女と会った。無事、家に戻っている。俺たちが古都の兄だと名乗れば、古都をよろしくと言っていた」 |