迷える小狐に愛の手を。
第二十五話





chapter:Darkness the Dark







一点の光さえない暗闇の世界。

上もなければ、下もない。

右もなければ、左もない。


オレは今、どこに向かって歩いているのかも分からないし、本当に歩いているのかさえも分からない。


そこに、オレはいた。

「暁(あかつき)兄ちゃん?」

「紅(くれない)兄ちゃん?」

「朱(あや)兄ちゃん?」

「誰か、いないの?」


一生懸命声を張り上げても、返事は返ってこない。

ただ、無という静寂が無限に広がっているだけだった。

『……と』

オレはひとり、途方に暮れていると、なんだろう。

オレの声ばかりが木霊する空間に、誰かの声が混じって聞こえてきた。


「だれ? だれか、いるの?」


暗闇の中に聞き耳を立てたら……。



『……こと』


オレの名前を呼ぶ、太くて低い、声が聞こえた。


この声、知ってる。

この声は……。


「父さん? 父さんなの?」


『古都……』


また、声が聞こえた。


やっぱり父さんだ!!

父さんがオレを探してくれている!!


オレは声がする方へと走った。


そうしたら、暗闇の中に一か所だけ、ぼんやりとした光が灯っているのが見えた。


「父さん?」

薄ぼんやりと光るその場所へとある程度近づけば……。


「父さん!!」

そこには、金色の美しい毛並みをした、大きな妖狐がいた。


「父さん!!」

目と鼻の先に父さんがいる。





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