chapter:大きな傷を抱えて。 そのことを思い出しただけで、涙が溢れてくる。 悲しくなる。 「かわいそうに……よほど怖い思いをしたんだね」 幸はオレの身体を抱え上げて耳元にほっぺたを当てる。 そうしたら……なんでかな。 悲しいと思っていた冷たい心が少し楽になる。 あんなに冷え切っていた心が、あたたかくなるんだ。 幸は傷ついたオレの両足が痛まないように優しく抱きかかえた。 オレは目を細め、心地よさに、思わずうっとりとしてしまう。 ……って、だめじゃんオレ!! コイツは人間なんだ。 オレを信用させてどこかに売り飛ばそうとか考えてるんじゃないか? オレは身を捩(よじ)って、幸の腕の中からスルリと抜けた。 だけど、オレの意識はまた、途切れそうになってしまう。 幸のことは、敵には違いないと思うけれど、少なくとも、神楽の手先じゃない。 それが分かって、少しホッとしたんだ。 我ながら図太い神経をしていると、自分でもそう思う。 でも、襲ってくる眠気には、勝てそうにない。 目が……ひとりでに閉じていく……。 背中を撫でられる手の感覚を感じながら、オレはまた、意識を手放した。 |