chapter:想い遙かに、忍ぶ恋 音を立てて扉が開くと、幸が戻ってきた。 「古都ちゃん、邪魔なのはわたしの方なんだよ?」 加奈子はそう言うと、クルリと踵(きびす)を返し、歩き出す。 扉の前で立っている、幸と擦(す)れ違った。 「このことは、誰にも言わないから安心してください。お幸せにね、先生、古都ちゃん」 えっ!? 加奈子? 戸惑っているオレの前で、加奈子は、部屋から出て行った。 ……トントン。 軽快に階段を下りる音が聞こえたかと思えば、遠くの方で、扉が閉まる音が聞こえた。 加奈子が帰ったんだ。 ――え? いや、え? だめじゃん、帰っちゃ!! 「幸!! 加奈子、帰った!!」 「そうだね」 オレの言葉に幸はひとつ返事をすると微笑み、加奈子が去って行った扉から、オレへと視線を移した。 いや、『そうだね』じゃなくってさ!! ってか、笑うなよ!! 今はそれどころじゃないだろう? アレ、きっと何か勘違いしてる!! 加奈子が言った、最後の、『幸せに』ってヤツ、アレは加奈子の『さようなら』を意味するんじゃないのか? 「幸!! 加奈子帰ったよ?」 「うん」 ……いや、いやいやいや。 幸さん? 「『うん』って…………。ああもう!! 何を呑気(のんき)に相槌(あいづち)ち打ってんだよ!! 加奈子、追いかけなきゃ!!」 オレは平然と立っている幸を怒ると、ベッドから身体を起こした。 |