chapter:想い遙かに、忍ぶ恋 それなのに、幸は話にも触れてくれないんだ。 ……チクン。 胸が痛みを発した。 そんなオレをよそに、幸は話を続ける。 「加奈子ちゃんには悪いと思うんだ。だけど、俺には他に好きな子がいるから、断った」 好きな人。 幸には、他に好きな人がいたの? 誰? オレ、知らない。 加奈子の他に、幸と仲がいい女性なんて、知らない。 いや……ひとりだけ知ってる。 オレに迫って来たいけ好かない腹立つドーベルマンの、あの飼い主だ。 ……まさかアイツか? アイツが好きなのか? いや、たしかにさ、男なら胸があって腰が引き締まっていて、誘ってくれる綺麗な女なら、少しはヤってもいいかな、なんて思うかもしれねぇけどさ。――いや、オレはこれっぽっちも思わないけどな。 だけど幸も男だし、そうなのかもしれない。 オレにはない、女性の身体。 幸は、ああいうタイプが好きなのか? なんて、オレが悶々(もんもん)と考えている間にも、幸は素知らぬ顔で好きな女の話していく。 「俺の好きな人ね、小さい顔をしているのに目が大きくて、すごくかわいいんだ」 目が大きい? かわいい? ……っていうことは、あの女じゃないのか? だって、あの女はどっちかっていうと細い目だし、かわいいというよりは、美人系? だったら……誰だよ? やっぱ、オレの知らない人なんだ……。 |