chapter:想い遙かに、忍ぶ恋 唇が離れる時、ちゅっていうリップ音が耳に届いた。 恥ずかしい。 顔がすごく熱い。 だからきっと、顔は真っ赤になっているだろう。 あまりにも恥ずかしくて、幸の顔を見ることができない。 幸の服を掴んで、赤くなっているだろう自分の顔を隠す。 「古都……かわいい」 幸の声が聞こえたかと思うと、オレの頭のてっぺんに柔らかい何かが乗った。 また、ちゅっていうリップ音が聞こえたから、きっとそれは幸の唇だ。 もう、ダメ。 すんげぇ恥ずかしい。 ドクン、ドクン。 ドクン、ドクン。 オレの心臓は有り得ないっていうくらい、ものすごく鼓動している。 『かわいい』なんて言われても、嬉しくて、前みたいに怒ることはできない。 でもそれは、きっと幸だけ。 『かわいい』って言われて、『嬉しい』って思えるのは、幸だけだ。 「古都……」 幸が言葉を紡ぐたび、顔をくっつけている胸から声が響いて、オレの耳をジンジンさせる。 「今思えば、古都が神楽に攫(さら)われる前に、古都から放たれる匂いをきちんと説明しておかなければいけなかった。 それなのに、俺は、仕事で失敗して落ち込む加奈子ちゃんを慰(なぐさ)めることを理由に、古都から離れた……」 「ね、何でそう言ってくれなかったの? オレの匂いが原因だって言ってくれれば……」 オレは幸の元を去らなかったかもしれない。 |