chapter:ひとりと一匹の奇妙な関係 「動かないで、ほら……」 鏡 幸(かがみ ゆき)はそう言うけど……。 痛いもんは痛い!! 『動くな』なんて無理!! オレは、まだ治ることのない傷口に向かってやってくる、水気を含んだ布と格闘中だ。 あれから分かったのは、この白い水気の布は、『消毒剤』というもので、『ばい菌』を傷から侵入させるのを防ぐものらしいこと。 それと、幸は動物のお医者さんだっていうことだ。 道理で傷の手当てが慣れているはずだ。 何度攻撃をしてもやり返さない幸に、『なるほど』と、内心うなずいた。 そんなこともあって、オレは幸に対する警戒心を解いた。 そんなオレは、ココへ来て三週間経ったのに、足の傷は思いのほか深く、妖力も回復する兆しがないので相変わらず狐のままだ。 おかげで、オレを追っているだろう神楽には、オレがどこにいるのかを悟られることはない。 ――え? ココがどこかって? ココは動物病院。 それでもって、今、オレがいるのは三階。 一階は病院で、二階から上が幸の家になっているんだ。 今日もオレは、ベッドの上で、『消毒剤』と格闘する。 えっと、なんでもこのほわほわした白い地面のことを、人間は、『ベッド』と言うらしい。 いつもここに来ると、幸は、『ベッドの上に居てね』と言うから、きっとココはそういう名前なんだ。 「拒絶する気持ちもわからないでもないけどね、古都(こと)。早く終わらせないとお前の好きなサケはお預けだね」 |