迷える小狐に愛の手を。
第三話





chapter:ひとりと一匹の奇妙な関係







「動かないで、ほら……」

鏡 幸(かがみ ゆき)はそう言うけど……。

痛いもんは痛い!!

『動くな』なんて無理!!


オレは、まだ治ることのない傷口に向かってやってくる、水気を含んだ布と格闘中だ。

あれから分かったのは、この白い水気の布は、『消毒剤』というもので、『ばい菌』を傷から侵入させるのを防ぐものらしいこと。

それと、幸は動物のお医者さんだっていうことだ。

道理で傷の手当てが慣れているはずだ。


何度攻撃をしてもやり返さない幸に、『なるほど』と、内心うなずいた。

そんなこともあって、オレは幸に対する警戒心を解いた。


そんなオレは、ココへ来て三週間経ったのに、足の傷は思いのほか深く、妖力も回復する兆しがないので相変わらず狐のままだ。

おかげで、オレを追っているだろう神楽には、オレがどこにいるのかを悟られることはない。



――え?

ココがどこかって?

ココは動物病院。

それでもって、今、オレがいるのは三階。

一階は病院で、二階から上が幸の家になっているんだ。


今日もオレは、ベッドの上で、『消毒剤』と格闘する。


えっと、なんでもこのほわほわした白い地面のことを、人間は、『ベッド』と言うらしい。


いつもここに来ると、幸は、『ベッドの上に居てね』と言うから、きっとココはそういう名前なんだ。


「拒絶する気持ちもわからないでもないけどね、古都(こと)。早く終わらせないとお前の好きなサケはお預けだね」





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