chapter:『いっぴき』と『いっぴき』 ブルーのクッションがあるそこ目がけて、オレがジャンプすると、ボフンと鈍い音を立てて、オレの身体を受け止めてくれる。 おかげで足も痛くないし、身体も無理な体勢を取らずに着地できるというわけだ。 「きゃあああ!! だめよ、そこは!!」 「ニャアアア!!」 後ろ足をかばって、何段も連なる階段をゆっくり下りていくと、猫の威嚇する声と、慌ただしい加奈子たちの声がいっそう大きくなっていた。 どうやら一階にある診察室から聞こえてくるみたいだ。 一階に下りたオレは、爪を立て、目の前に佇(たたず)んでいる茶色い扉をガリガリと引っ掻く。 ギィ……。 繰り返されるオレの攻撃に観念した扉は、小さなさな音を立てて、ひらいていく。 フンッ。 扉の分際で、オレに勝てると思うなよ? ……なんて、ちょっと勝ち誇るオレ。 ひらいた扉の隙間から、顔を突っ込み、診察室の中に入る。 なんじゃこりゃっ。 診察室の様子を見たオレは、自分の目を疑った。 目の前に広がっている光景は、それは恐ろしいものだった。 「ギシャアアア!!」 今のオレよりも小さい身体をした三毛猫が……室内を駆け回っていたんだ。 「リンや……大人しくしておくれ」 白髪の老婦人が、目の前で暴れまくっている猫を見て、オロオロしている。 白衣を着た幸は、毛を逆立てている猫と対峙しているし、「お願い、動かないで傷がひどくなる」と、初めてオレを手当てした時のように声をかけていた。 |