迷える小狐に愛の手を。
第四話





chapter:『いっぴき』と『いっぴき』





ブルーのクッションがあるそこ目がけて、オレがジャンプすると、ボフンと鈍い音を立てて、オレの身体を受け止めてくれる。

おかげで足も痛くないし、身体も無理な体勢を取らずに着地できるというわけだ。


「きゃあああ!! だめよ、そこは!!」

「ニャアアア!!」

後ろ足をかばって、何段も連なる階段をゆっくり下りていくと、猫の威嚇する声と、慌ただしい加奈子たちの声がいっそう大きくなっていた。


どうやら一階にある診察室から聞こえてくるみたいだ。




一階に下りたオレは、爪を立て、目の前に佇(たたず)んでいる茶色い扉をガリガリと引っ掻く。


ギィ……。

繰り返されるオレの攻撃に観念した扉は、小さなさな音を立てて、ひらいていく。


フンッ。
扉の分際で、オレに勝てると思うなよ?

……なんて、ちょっと勝ち誇るオレ。


ひらいた扉の隙間から、顔を突っ込み、診察室の中に入る。



なんじゃこりゃっ。




診察室の様子を見たオレは、自分の目を疑った。

目の前に広がっている光景は、それは恐ろしいものだった。


「ギシャアアア!!」

今のオレよりも小さい身体をした三毛猫が……室内を駆け回っていたんだ。


「リンや……大人しくしておくれ」

白髪の老婦人が、目の前で暴れまくっている猫を見て、オロオロしている。


白衣を着た幸は、毛を逆立てている猫と対峙しているし、「お願い、動かないで傷がひどくなる」と、初めてオレを手当てした時のように声をかけていた。





- 38 -

拍手

[*前] | [次#]
ページ:

しおりを挟む | しおり一覧
表紙へ

contents

lotus bloom